アーティスト紹介

WSC #020 加藤太一

Taichi KATOH

[超級覇王電影団!]

著名原型師がその一挙手一投足を無視できぬ
「スカルプターズ スカルプター」的資質の真意

 あのだだっ広いワンフェス会場内からこの「見えづらい原石」を見出せたという事実に対し、ひさびさにちょっと興奮している。2Dのアニメ絵を高解像度で読み解く力、2Dを3Dへ変換する際のアレンジ、量感表現、空間構成。まだまだ荒削りではあるものの、そうした要素のどれを取っても「これまで見たことのない、どれとも似ていない」という、非常におもしろくオリジナリティの高い才能の持ち主である。
 もっとも、「これまで見たことのない、どれとも似ていない」というのは、裏を返せば「少なからずピーキーで、決してポピュラリティは高くない」ということでもある。それゆえ、加藤の作品を見て後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃を受ける人の数と、「上手いには上手いのかもしれないけど、なんかちょっと……」といった感じでいまいちピンと来ない人の数を比べた場合、後者のほうが多い可能性は否めない。ただし、少なくともこれまで「先鋭的な造形」などという切り口で褒め讃えられてきた著名原型師たちは今後、加藤の一挙手一投足を無視することができなくなるのはまちがいないはずだ。つまるところ、加藤太一というのは「そういう存在」なのだ。
 こういう書き方をすると、加藤は“ミュージシャンズ ミューン(音楽家のための音楽家)”ならぬ“スカルプターズ スカルプター(造形家のための造形家)”なのかと思う人もいるだろうが、もちろんそうしたカラーが色濃いものの、必ずしもそれだけというわけではない。ミュージシャンズ ミュージシャンには「自ら好んでその場所に住み続ける人(たとえばトッド・ラングレンや大瀧詠一)」と「けっきょくそこにしか住めない人(具体例は割愛)」がいるが、少なくとも加藤は後者タイプではない。自らをヒットメーカーにしたい欲望があり、相応の努力を惜しまないというのであれば、加藤は著名原型師としての指定席(大手メーカーのマスプロダクツ作品などで全国区向けの原型製作をこなすポジション)を勝ち取ることもできるだろう。ただし、そのためには「万人受けを目指して丸くなる」という努力も当然必要になってくるわけで……。
 まあ、少なくとも当分のあいだはそうした心配は必要ないかもしれない。いつもニコニコしていて笑いのツボが浅く、「キミ、そんなレベルのギャグで笑ったら芸人をダメにするぞ!」とツッこまれるような人柄ながら、じつは相当にパンキッシュなハートの持ち主であり(自身のWebサイトなどは毒のオンパレード!)、「なりふり構わず有名になりたい」とはなかなか思えぬタイプであろうから。
 できることならば、そうした持ち前のパンク精神を失うことなく、するするとこの業界のトップへ駆け上がっていってほしいものである。

text by Masahiko ASANO

かとうたいち1980年4月27日生まれ。中学時代、ガンプラ好きな友人の影響から初めて模型製作に手を染めるも、「ゼロ戦みたいなスケールモデルをぼちぼち作った程度」。高校1年のとき、その友人に「ガンダムのガレージキットイベントだけど、スケールモデルもあるはずだから」とある意味騙されてJAF・CONへと出向き、ガレージキットというよりは、卓の内側に座っている“ディーラー”という存在にカルチャーショックを受ける(「軍服とか着たイタいダメ大人のくせに、造形物はすごい」というギャップに感激したらしい)。その後、ディーラーへの憧憬を足掛かりとして造形に取り組みはじめ、10作品ほどのフルスクラッチビルド実績を経て、'00年、20歳のときに“超級覇王電影団!”名義でJAF・CONにてディーラーデビューを果たす(JAF・CONを選択した理由は「ワンフェスは敷居が高くて恐そうだったから」とのこと)。ワンフェスへは'03年冬より参加。'04年春からは、プロ原型師としての活動をスタートさせる。

WSC#020プレゼンテーション作品解説

© HARADA TAKEHITO


プレネールさん 鮫背骨折り

※from 『原田屋』Webサイト看板娘
ノンスケール(全高170mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/2,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/4,800円(税別)

(※販売は終了しています)


 またまたU(アンダー)-23世代からとんでもない才能が登場しました。ピーキーな作風でありつつも、凝り固まっていない伸びやかな発想と天性の空間構成能力+デッサン力を用いて立体化される作品は、どれを取っても「先駆者たちの作風をまったく真似していない」秀作揃い。プレゼンテーション作品となる“プレネールさん(イラストレーター原田たけひとのWebサイト『原田屋』の看板娘。前回のワンフェスにて発表されたものに改修を加え、新たにベースを作り起こしたWSCヴァージョンです)”も、仮にこのキャラクターのことをまったく知らぬ人が見ても、感覚的に「あ、これこそが3Dとしての正解だ!」と思わせる説得力を有しています。
 もちろん、造形対象が造形対象なだけに“美少女フィギュア”という観点で眺める人が大半かもしれませんが、できることならば、美少女フィギュアうんぬんとは別のところにある「この先の飛躍を予感させる圧倒的なポテンシャル(潜在能力)」を読み取っていただければ幸いです。

加藤太一からのWSC選出時におけるコメント

 たとえば、「少年の人生を変えてしまうようなフィギュアを作りたい」っていうのが、ひとつ、難しげな最終目標。
 汚れのない清い心の少年が、自分の作品の前で、息を止め、立ち尽くしてしまう瞬間が、作り出せたら。ウッワ、やってみてぇ!
 きっと、そのためには、それこそ、「それ生きてるんじゃないか?」と言われんばかりの造形力が、もしくは、ホントに生きたモン作っちゃうような、神がかり的な何かが。……薬か?
 投げかける目線が、しゃべり出しそうな口元が、見えちゃいそうなパンツが(笑)。ホントに動き出すフィギュアも、作ろうと思えばなんとか作れそう。ホントにやわらかいほっぺたのフィギュアも、なんだかわりといまなら簡単そう? しゃべって、歩いて、歌って、踊って、ジェットで飛んで、変身だ、合体だ! メ、メガ粒子砲! ハアハア……。
 ワンフェスはおもしろいですね。「ディーラーは、やりたいことをやり切ったでしょ?」とか言って存続を微妙にしてこられたときなんかは、「ちょっと待てー!」って思ったですけど(笑)。
 やりたいことは山ほどあって、さりげに食べていかなくちゃいけなくて、一般受けしないと言われるセンスがヤバくって、でも、それとなく、なんとなく、おもしろいものが作れたらな、と思うのです。
 WSCは参加してみて、いろいろとおもしろかったです。お世話になった方々と、当日、プレゼンテーション作品をちょっとでも気に入って下さった方々に、大感謝を。
 あとは、どうやって、ワンフェスに清い心の少年を呼び込むかだな……。