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WSC #040 はるき

Haruki

[Genocide Kitten]

2Dのスキルと3Dのスキルがついに釣り合った
最新型の「画が描ける造形家」

 造形家にとって「画が描ける」ということがどれだけ大きなアドバンテージに繋がるか、その旨はWSCを通じて繰り返し解説してきたつもりだが、ここにまたひとり、画が描けることを明確に武器として据えたタイプの造形家が登場した。
 ワンフェス&造形方面で活動するときの名を“はるき”、同人誌方面で活動するときの名を“はっとりぃ”と使い分けるこの男は(ちなみに、「はるきは一応の社会性を有しているがはっとりぃはとことんアナーキー」というキャラ設定らしい)、ただ単に画が描けるだけでなく、時代の最先端を担う画を表現できうる突出したセンスとスキルを有している。さらにここからが特筆すべきポイントなのだが、これまでに現れた“画が描ける造形家”は「画はすごく上手いけれど造形がまだ画のレベルに追いついていない」、もしくは「画はそこそこのレベルだが造形の才能が突出している」というバランスの悪さを露呈していたのだが、はるきは「はっとりぃ=2Dスペシャリストとして体得した線をそっくりそのまま3Dに置換することができる」のだ。
 無論、そこまでの画力があれば、自身の創作キャラクターで勝負することも容易だろう。しかし、そうして「分かりやすい評価」を得るためにガツガツ行かないあたりが、この男の憎いところである。まずゲーマーとしての自分ありきでゲームキャラクターを愛で、同人感覚溢れる先鋭的な線でそのキャラクターを再構成し、立体化する。多くのアマチュア原型師が手掛ける版権キャラクターフィギュアが「版権キャラクターに依存した(版権キャラクターの上に乗っかった)造形」でしかないのに対し、はるきのそれは「あえて版権キャラクターを使って行う3D版同人活動」なのだ。
 おそらくは、こう説明したところで「……はあ? 前者(多くのアマチュア原型師)と後者(はるき)のどこがどう違うわけ? どっちも版権キャラを使ったファン活動じゃん」という反応を見せる人もいると思う。反面、前者と後者の絶対的な隔たりに対し、畏怖の念、もしくは多大なリスペクト心を抱く人もいるだろう。とくに一流原型師と呼ばれているような人たちは、背後に迫り来ている“ネクスト ジェネレーション”の存在をそろそろ明確に意識するべきではないだろうか?
 もっとも、はるきがこのアーティスト解説文を読めば「えええ~っ、ちょっとヘンなものが作りたい以上でも以下でもないですよぉw」と照れるはずだが、そうした気負いのなさがこの男の憎いところでもあるのだ。

text by Masahiko ASANO

?はるき1982年1月30日生まれ。中学生時代にアーケードゲーム『ヴァンパイアハンター』にショックを受けてゲーセンへ入り浸りの日々となり、「自分もゲームを作りたい!」と考え、イラスト、音楽、プログラム等、ゲーム制作へ通ずることすべてに手を出しはじめる(その流れでフィギュア造形にもチャレンジしたが、CG画等の魅力には勝てず一旦棚上げに)。美大入学後は漫画部へ所属、そのなかの有志が同人誌即売会へ参加していたためそこでフィギュアを造形して売ることを思い付き、エロゲーキャラをデフォルメしたガレージキットを製作/販売する。その後、WSC#006臼井政一郎の綾波レイ&惣流・アスカ・ラングレーに衝撃を受け、同作品がWSCプラス版レジンキャストキットとして販売された'02年[冬]のワンフェスへ一般入場者として初参加。その際、「メーカーの見本市かと思っていたワンフェスがじつは同人誌即売会以上に同人っぽいノリ」であることに好意を抱いてワンフェスへのディーラー参加を決意し、'02年[夏]から“Genocide Kitten”名義でディーラー活動をスタートさせる。

Webサイト http://www.hekill.com/

WSC#040プレゼンテーション作品解説

© 上海アリス幻樂団


レミリアお嬢様

※from 同人弾幕系ゲームソフト『東方紅魔郷』
1/8スケール(全高約150mm ※羽含まず)レジンキャストキット+レミリアお嬢様イラストポストカード(画/はっとりぃ)
※付属ポストカードのイラストレーションを手掛けた“はっとりぃ”は、WSC#040“はるき”の「2D創作時における別ペンネーム」です


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/4,500円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/6,200円(税込)

(※販売は終了しています)


 ワンフェスにおけるガレージキットという世界では、じつは、「どのキャラクターを造形するか」という対象選定の地点から戦いがはじまっています。造形対象の選定作業は、往々にして造形者のセンスやフィロソフィーと合致しているためです。それで言うと、はるきのプレゼンテーション作品“レミリアお嬢様”(同人弾幕系ゲーム『東方紅魔郷』に登場する最終ボスの吸血鬼)というキャラ選定は、まさしく「はるきという人物像を雄弁に物語っている」と言えるのではないでしょうか。
 また、はるきは同人画描きとしての才能を駆使し、レミリアを再解釈/再構成しつつ造形しています。そうしたあたりにはるきなりのアイデンティティーを感じ取れるような人には、この作品はたまらなく魅力的なアイテムとして映るはずです。「画が描ける」人間ならではの、デッサン力をフルに発揮した絶妙なデフォルメ具合と、艶やかなフォルム。時代の先端を行く「最新型の造形」をぜひとも実感してください(ちなみに、キットに付属するベースは『ワンダーショウケース』用に作り起こされたものです)。

はるき からのWSC選出時におけるコメント

 最初にWSC選出のお話をいただいたとき、無職を狙った新手の詐欺かと思いました。どうもはじめまして、はるきです。
 メールは迷惑メールとしてゴミ箱に入っていましたし、あさの氏の電話はやたらとノリが軽いし、何より、これからとりあえずWSCを目指してがんばっていこうと思った矢先のお話でしたので、なんだかんだで大金を巻き上げられるに違いないと震えていたものです。
 で、お会いしてみるとなんだか本物らしい。うれしい反面、ちょっと当惑もしました……生まれて初めてスカートを作ったような若輩者が居ていい場所なのか……と。でも、選出理由を聞いてみると「あんまりにも好き勝手だったから」みたいなお話だったので、海洋堂って割と適当だなあーと思うと同時に納得できました。
 ガン消しくらいしか立体物を見たことがなかった自分がガレージキットを初めて見たのは、中学生のころです。カプコンの『ヴァンパイアハンター』という格闘ゲームにひどく没頭しており、ヴァンパイアと名が付くものならなんでも買い漁っていたときのことで、カプコンの元絵を使いまわしたようなグッズを死にもの狂いで集めていました。ガレージキットに遭遇して最初に思ったのは「誰がこんなものを買うんだろう?」でしたね。色も塗られていませんし、値段も高いし、カプコンの元絵を立体化したものでもなかったですから……。
 買いましたが。
 絵で見る解像度以上の密度とおもしろ味がある立体のキャラクターグッズを見たのはそれが初めてでしたし、何より、こんなヴァンパイア狂いですら買うのをためらうようなものを完璧以上に作り上げるという頭の悪さに感動したのです。
 そんな作品がごろごろしているワンフェスを知ったときは、本当に胸が高鳴りました。そして、僕もいつか、この大人気ないイベントで命がけで馬鹿をやりたいなあと思い、参加を決めました。
 そんな僕の趣味の悪いお人形、皆さんの目にはどう映るのでしょうね。僕の大好きな、清楚で、可憐で、潔癖で残酷な女の子がひしめいている素敵な趣味のゲームと出会ったので、その感動を詰め込みました。
 お母さんに「見ちゃいけません!」と目を覆われるような、そんな印象でしたら幸いです。それではごきげんよう。