アーティスト紹介

WSC #050 カズヨシ

[うつねこ亭]

突然の《覚醒》によりネクストステージへ
今後待ち受けるのは「プレッシャーとの戦い」か

 もしあなたが「以前からカズヨシの才能に着目していた」というのであれば、あなたはカズヨシに対し何かしらシンパシーを抱くカズヨシの関係者か、もしくは超能力者であるか、そのどちらかだろう。
  というのも、ここまで極端なたとえ話を用いざるをえないほど、'09年[夏]のワンフェスとそれ以前のカズヨシの作品は「どう見ても別人の作品」なのだ。
  無論、その事実はカズヨシ本人も自覚しているのだが、ただしなぜそうした劇的な変化が生じたのか、そこに関しては自分で自分に説明が付かない様子なのである。
「自分自身、別にそれ以前と何かを大きく変えたつもりはないんです。ただしメイジ3('09年[夏]ワンフェス出品作品)以前は、造形している段階から“いや~、こうじゃないんだよなぁ……”ということには気付いていたのに、“じゃあ、どうしたらいいんだろう?”という対処法がまったくわからなくて、わからないまましめ切り合わせで無理やり完成させていたんです。
  ただしメイジ3を造形していたときは“……あっ、ここはもっとこうしたほうがいいんじゃないかな”ということに次々と気付き、それをそのまま実行していった、というだけなんですけれど……」
  これぞまさしく、クリエイターが《覚醒》を成し遂げた瞬間そのものである。
  それ以前は、造形の元ネタとなったキャラクター画の主線(アニメ絵における黒い枠線)をひたすらトレースするだけに必死で、その主線が有している意味合い(たとえば「布と布の縫い合わせを表現している」といったこと)にまで思考が及んでおらず、ほとんどの主線を同一の表現にてそのまま3Dに置換していたため造形作品が著しく情報量不足に陥っていた、と。さらに、明らかな経験不足からおぼつかなかった顔まわりの造形に関しても、覚醒を伴ったメイジ3を通じて突如自分なりの作風を確立できてしまった、ということらしい。
  もっとも、こうした覚醒が己にもたらされたからといって、こののちにおけるカズヨシの造形がこのまま高レベルで安定し続ける保証はどこにもない。覚醒以前の地点まで立ち戻ってしまうことはないものの、モアベターな作品を高望みするがゆえに造形フォームを崩したり、これまで経験したことのなかった「周囲から見られている」というプレッシャーが悪い方向に転ぶ可能性もある。
  おそらくは、この先のカズヨシにはそうした試練が待ち受けているわけだが、裏を返せば、そうした試練を経験できうる人は数少ない。ぜひとも試練をねじ伏せて、末永く一線で活躍していってほしい逸材である。

text by Masahiko ASANO

かずよし1984年7月30日生まれ。中学生のときから『ホビージャパン』を読みはじめ、高校、大学(美大)時代はひたすらガンプラ製作に熱中。大学がつまらなくなり2年で退学したのち、ホビージャパンの広告を見て代々木アニメーション学院フィギュアアーティスト科へ入学することを決意、在学期間の2年間を原型師になるための学習に費やす。同校に進む以前はフィギュアにはまったく興味がなかったが、授業を通じてフィギュアという存在を強く意識するようになると同時に、プロ原型師として生きていくための自覚が生じることになる。同校在学中の'07年[冬]に、クラスメイトと共に“うつねこ亭”名義にてワンフェスへ初ディーラー参加。ただし、10個ほど持ち込んだ『魔界戦記ディスガイア』の女戦士は数個しか売れずに終わる。その後も「10個ほど持ち込み7~8個の販売」という状態が続いていたのだが、'09年[夏]に出品したメイジ3が「持ち込んだ5個が開場後5分で完売してしまい、何が起きたのか全然わからなかった」という突然のブレイクを経験した。現在は「プロ原型師を目指して勉強中」とのこと。

Webサイト http://utuneko.genin.jp/

WSC#050プレゼンテーション作品解説

© SEGA


メイジ3

from ニンテンドーDS用ゲームソフト『セブンスドラゴン』
ノンスケール(全高145mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/5,800円(税込)

※版権元の意向により、一般販売は行われません


 '09年[夏]のワンフェスにて突如覚醒したかのように己の作風を確立、それ以前に造形された作品群とはまったくもってレベルの異なる秀作を発表し、『ワンダーショウケース』選出スタッフ一同の目を見張らせたカズヨシ。当然ながら、そのブレイクスルー作となった“メイジ3”(ニンテンドーDS用ゲームソフト『セブンスドラゴン』に登場する、世界の物理を操る学問を修めた学士)がカズヨシのプレゼンテーション作品となります。造形の元となったメイジ3のデザイン画を見たことのある人ならばわかると思いますが、オリジンたるキャラクターデザインをきちんと尊重しつつも、デザインを構成するすべての要素を一度解体して高解像度にて再構築することにより得た、「元絵以上にホンモノらしい」自然なアレンジがとにかく秀逸。「ガレージキット的造形における、ひとつの解答がここにある」と言っても過言ではありません。さらに、'09年[夏]のワンフェスにて販売された状態からパーツ分割が変更され、より完全なかたちとなっての製品化となります。

カズヨシからのコメント

 皆さまはじめまして、カズヨシです。
  最初に『ワンダーショウケース』選出の連絡をいただいたときは、自分には縁遠いものだと考えていたのでとても驚きました。
  正直、自分にはまだ大した技術力があるとは思いません。作品を作るときは、今回に限らずいつも、「モチーフにしたキャラクターをどう表現すればいいかわからない、そもそも完成させることができるのか?」といった感じで……。最終的にワンフェス会場で展示することができていれば「よかった、間に合った」と安堵して、イベントは半ば成功、といった状態でした。そんなレベルだったので、連絡をいただいたあとは不安がうれしさを上まわる勢いでした。
  今回プレゼンテーション作品となったメイジ3を作るときは「『レプリカント』(竹書房刊の美少女フィギュア ガレージキット専門誌)に載る」ということを目標としてやってきました。以前別のイベントで、隣のブースにいた友人がレプリカントの編集者の方に作品掲載の説明を受けているのを見て、とてもうらやましく思っていたもので……。で、前回のワンフェスにて、見事レプリカントに写真撮影をしてもらうことができ、無事目標を達成することができました。自分としては上々の結果でとても満足していたんですが、まさかこんな事態になるとは……。続けていれば何かしらサプライズが起こるものなんですねぇ。支えてくれた方々には、本当に感謝しています。
  自分のフィギュア作りは、いまはまだ、スタイルというか作風が確立されておらず、手探り状態でやっています。今回評価されたポイントをどう生かしていくかとか、考えることも多いんですが、楽しみながら作ることを忘れずに次回作以降に繋げていきたいと思います。