アーティスト紹介

WSC #054 Sea

[とらbrindle]

作風や感性まで含め'10年代的ならではの即戦力
「上手い」というよりは「巧い」超秀才タイプ

 「小・中・高までの12年間を通じた通知表で、図画工作や美術では“5”以外をもらったことがなかったでしょ?」というこちらからの問いに対し「えっ……あ、はい」という答えが返ってくることは、質問を投げかける以前の段階で120%確信していた。
  その作風は、「上手い」というよりも「巧い」と表現するべきだろう。感性にまかせて突っ走る天才型ではなく、センスのよさと器用さを駆使し、自身のウィークポイントをひとつひとつ潰しながら前進していく超秀才型である。こう書くと「努力の人」と勘違いされがちだが、決してそういうことではない(天才にしても凡才にしても、努力は皆しているのだ)。Seaの特筆すべき資質は、「当の本人には完成後のハイクオリティーなフィギュアの姿が造形開始以前から高解像度で見えている」という点にある。ゆえに、製作過程での試行錯誤は必要としつつも、相応に時間を費やすことさえできれば、当初イメージしたゴールにきちんと辿り着くことができる―という才能の持ち主なのである(歴代WSCアーティストで似たタイプを探すと、性別まで含め、WSC#046 Noaと同じような資質と言ってよいかもしれない)。
  その事実を証明するのが、プレゼンテーション作品の“初音ミクとはちゅね”だ。同作品は彼女にとっての、事実上のフィギュア造形第2作目。これとほぼ同等のクオリティーを有する処女作のモチーフもやはり初音ミクであったのだが、処女作に着手する以前は「自分でフィギュアが造形できるとは思ってもいなかったので、ねんどろいどやfigma(共に市販のPVC製塗装済み完成品)のミクの服装を自分好みに改造して満足していた」のだという。その後、フィギュア造形指南書を通じてそのA to Zを知り、じつは思いのほかハードルが高いわけではない事実を把握。「ならば……」と造形に取り組みはじめた途端、処女作でいきなりプロの作品と見まがうほどの逸品を生み出すに至ったというのだから驚く。
  また、「清潔感が高くて押しつけがましくない、ドールっぽい雰囲気のフィギュアが好き」で、「決め決めの見栄切りポーズとか躍動感に溢れた暑苦しい雰囲気のフィギュアが苦手」という感性は、まさしく“The '10年代”的。つまりは、フィギュアメーカーからすれば即戦力以外の何ものでもないわけだが、「自分が好きな対象(キャラクター)以外とは向き合えないかもしれない」というある意味古風な一途さが、この先のSeaがどこへ向かって進んでいくかの鍵となるはずである。

text by Masahiko ASANO

しー19XX年10月19日生まれ。小学3年生~中学生ぐらいまで紙粘土や木彫りで動物を作ることを趣味とし、その後もクラフト系のもの作りを独学で続ける。短大卒業後にデザイン専門学校へ進み、DTPデザイナーとしてデザイン事務所に就職(のちに独立してフリーランスに)。'05年、建築模型の仕事でエアブラシが必要となり、それを購入する際に東急ハンズで型取り材&注型材を見つけ、「……何かおもしろいことができそうな気がする!」と直感的にひらめいたのが造形道へ進みはじめたきっかけ。同年に一般参加者としてワンフェスへ接し、'07年には大好きなミュージシャンのヘッドパーツ(アクションフィギュア装着用)を自作、それを複製&塗装して友人に配ったところ大好評を博し、ガレージキットの世界へ一気に傾倒する。'09年、通販にて購入したフィギュア造形指南書を読み「初音ミクを作る」と決意、フルスクラッチビルド経験がゼロに近しい状態のままいきなりワンフェスへのディーラー参加を申請し、'10年[冬]に“とらbrindle”名義にてディーラー参加を果たし現在へ至る。

Webサイト http://trbrindle.exblog.jp

WSC#054プレゼンテーション作品解説

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© おんたま/CFM


初音ミクとはちゅね

from DTMソフト『キャラクター・ボーカル・シリーズ01 初音ミク』
1/7スケール(全高225mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/6,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,800円(税込)


 「大の音楽好き」と「造形物を創作してみたい」というふたつの気持ちを同時に満たす存在として、運命的に初音ミク(デスクトップミュージック ソフトウェア『キャラクター・ボーカル・シリーズ01 初音ミク』より)と出会った女流作家“Sea”。子供のころからクラフト系のもの作りを趣味としていたものの、いわゆる「フィギュア」然としたガレージキット的造形に着手しはじめたのはわずか1年半ほど前で、プレゼンテーション作品となった“初音ミクとはちゅね”は彼女にとっての第2作目。キャリアにまったく見合わない安定感漂う造形と、「女性ならでは」というありふれた言葉では片付けられぬ清潔感の高いきめこまやかなフィニッシュワークは、好き嫌いを生じさせぬ万人受けする作風と言えるでしょう。PVC製塗装済み完成品として製品化されていても誰も不思議に思わぬほどの完成度の高さを、ぜひともレジンキャストパーツの状態で実感してみてください(商品には両腕のインジケーター用デカールが付属しています)。

Seaからのコメント

 ワンダーフェスティバル2011[冬]で、イベントのディーラー参加1周年になります。初めてのフルスクラッチビルド・初めての当日版権申請・初めて販売して手に取ってもらえてうれしかったことを経験してからあまりあいだを空けず、2作目になる『初音ミクとはちゅね』でWSC選出のお話をいただき、正直めまいがしているところです。
  元々フィギュアや人形やぬいぐるみなど“ちいさきもの”の存在が好きでした。いわゆる美少女フィギュアも好きでしたが、まさか自分が作ることになるとは考えていませんでした。わたしがフィギュア原型を製作するきっかけになったのは、初音ミクの歌声とかわいらしい姿が大好きになってしまったからです。歌に感動した気持ちをどうにかかたちにしてみようと、造形の知識もあまりないままミクのフィギュアを作りはじめました。わたしは、おもしろいと感じたり好きになったことには後先考えずにのめりこんでしまう性格をしているので、できるかどうか不安に感じるより、フィギュアの原型を作る楽しさにすっかり夢中になってしまいました。
  フィギュアの製作において役に立ったというか、よかった趣味がひとつあります。それは「人物の写真集を眺めるのが好き」だったことです。とくに1950年代のピンナップガールのものや、ピエール・エ・ジルの写真のような“お人形さん”な雰囲気が好きで、かわいい女の子のしぐさや美しい体つきが自然と頭のなかに浮かんできます。それを参考にして「ここはこうしたほうが絶対かわいい!」と、自分の好みをパテに練り込みながら作っています。
  でも、まだまだ技術が足りなくて、どうしても思っているように作れないことが多いです。これからは腕を磨いてできるだけ思いどおりに表現できるようにしたいです。あと、わたしの造形はすごく個性的というわけではありませんが「かわいいと思う」好みの結晶のようなものなので、自分の造形を見た人が「これはSeaって人が作ったっぽいな」と少しでも感じてもらえるようなものを作れるように心掛けていきたいです。