WSC#059ボーナスステージ作品紹介

© 2008 めぬ




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吹上線

(ふきあげせん)

初出/ワンダーフェスティバル2008[夏]

【鉄道創作設定】

 吹上交通は国鉄吹上駅前の吹上市駅から奥忍駅までの約15kmを結ぶ軌間762mmの単線電化路線です。現在の営業路線は奥忍線のみですが、以前は柳宮から分岐し、赤見山口を結ぶ赤見山線がありましたが柳トンネルの大規模な内部崩落のため廃線されてしまいました。
  吹上市から上吹上は市道との併用軌道が続き商店街の中をゆっくりと走り、市街地を抜けると田んぼが広がるのどかな風景が広がります。終点の奥忍は忍の山並みに囲まれたワサビ田で有名な集落です。奥忍線は地元利用者から親しみを込めて「吹上線」と呼ばれています。
  使用車両は釣掛式、カルダン駆動車、電車改造の機関車などすべて旧性能車ですがバラエティーに富んでいます。


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【作品解説】

 めぬによる“ローカル線+女の子ヴィネットシリーズ”の第1弾。「堀河紗恵(ほりかわさえ)と妹の菜恵(なえ)が吹上線に乗り、夏休みにおばあさんの家へふたりだけで遊びに行く」という設定で、ローカル線ならではの硬券切符、1両編成の車両、木製の床板といった「昭和30~40年代の香り」を初体験した菜恵が大はしゃぎしている……というシチュエーションを立体化している。
  ポイントは言うまでもなく、バッサリと輪切り&垂直切りにされた吹上線の車両だ。モハ6系車両(めぬによる創作車両)は徹底的にディテールが作り込まれており、とくに車両の下側にぶら下がっている抵抗器は「公園に保存展示されている古い車両を撮影取材してディテールを研究した」という凝りよう。また、フィギュア2体が座るシート幅で車両を輪切りにしているため、車両の下側には車輪パーツが存在しないので、透明プラパイプにて車両を保持することで「まるで車両が空中に浮いているかのような景色」を再現しているアイディアが秀逸である。
  WSCプレゼンテーション作品の『みのりの』と同様にフィギュアの作り込みは限りなく雑でアバウトだが、数多くの雑誌やWebサイトがこの作品に着目しその写真を掲載したことからもわかるように、世の多くの人がめぬの異能ぶりに気付くこととなったターニングポイント作であると言えよう。


text by Masahiko ASANO




© 2009 めぬ




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明用の夏

(みょうようのなつ)

初出/ワンダーフェスティバル2009[夏]

【鉄道創作設定】

 大芦山明用神楽 通称「青水(おおみ)の舞」
  毎年8月の第一日曜日に大芦山明用神社で行われる神楽奉納祭。多くの参拝者が訪れ、山あいのちいさな村がいちばん賑わう日です。
  神社の最寄り駅、熊上(くまがみ)鉄道青水駅に臨時改札が設けられ、埼北急行(※注/WSCプレゼンテーション作品『みのりの』にも登場する、埼玉県内を走る架空のローカル線)からロマンスカー車両を使用した熊上鉄道直通乗り入れ青水駅止まりの神楽祭臨時特急「おおみ」号が運行されます。
  近くを走る新幹線の車窓からはトンネルが切れる阿良川上の高架橋区間で一瞬ですが、神楽祭の賑わいを見ることができます。
  神社周辺の青水地区は、TVアニメ番組『保安少女ミラクル・タブレット』の登場人物が暮らす町のモデルとされ、アニメファンが訪れる観光名所になっています。


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【作品解説】

 めぬによる“ローカル線+女の子シリーズ”の第2弾。前作の『吹上線』は空間を写実的に輪切り&垂直切りにしていたのに対し、本作では夏祭りのシチュエーションを濃密に演出するため空間をデフォルメして圧縮し、やたらと情報量の高い風景を描き出していることに注目したい。
  ヴィネットの上部に見て取れる電車は、熊上鉄道のモハ10系と、クハ47系(元埼急300系)の新旧連結車両(当然ながら、めぬによる創作車両)という設定。めぬが製作した完成見本では、画面左側車両の車内照明がオレンジ色に、右側車両の車内照明が水色にLEDにて発光するように加工されているが、これは「オレンジ色の車内照明はハロゲン球が用いられている旧車両=モハ10系で、水色の車内照明は蛍光灯が用いられている新車両=クハ47系」ということらしいのだが、「……こちらは鉄道マニアではないので、そんなことわかるわけないだろっ!」とツッ込みたくなるところではある。
  なお、この作品の最大の見どころは、じつは焼きとうもろこし屋台の横に置かれた発電機だ。デザインも設定(桶川重工製PX-100)もめぬの創作によるもので、「鉄道に限らず、機械ならばどんなものでも好き」というめぬの性癖がよい意味で最大限に生かされている。また、「埼北急行が制作協力に携わった、U局系列で放送された鉄道魔法少女アニメ『保安少女ミラクル・タブレット』」というトンデモ設定(なんじゃそりゃ……)は、女の子が手に持つ綿アメのビニール袋と頭に被るキャラクターお面に生かされている。


text by Masahiko ASANO