アーティスト紹介

WSC #062 aki

[サンタ狩り]

「仕上げの粗さ」を問題視する必要などまるでなし
ガレージキットスピリッツ、ネバー ダイ!

 総じて表現力(デッサンや造形の質、2Dの絵を違和感なく3Dへ置換するセンスなど)が猛烈に不足し、アニメ系フィギュアの多くが泥人形レベルであった'80年代初頭~中盤のガレージキット黎明期―そうした時代背景のなかで、頭ふたつ抜きんでていた存在が海洋堂であった。「まるで平面の絵がそのまま立体化して飛び出てきたような」という形容を初めて使うことが可能となったそれら(今池芳章、白井武志らによる『ルパン三世』や『銀河漂流バイファム』などのキャラクターフィギュア)は、当時の造形家ならば誰もがジェラシーを感ずるほどの完成度を誇っていたのだが、いかんせん、そのどれもが「仕上げが粗くてひどく大雑把だった」のだ。
 もちろん、「荒々しく勢いがある」という褒め方もできるにはできたが、ただし、表面処理の美しさや繊細さを重要視していた関東の造形家たちからすると、そのいい加減な仕上げには思わず閉口したものであった。
 そんなガレージキット黎明期の海洋堂製アニメ系フィギュアが'10年代の現代に蘇ったとしたら、いま現在のフィギュアファンの目にはどう映るだろう? もちろん、ただ単に蘇るのではなく、その表現力がきちんと30年分アップデイトされていたとしたら……。
 ここまで引っ張ればすでにお気付きのことと思うが、akiという存在はまさしくその「現代に蘇ったガレージキット黎明期における海洋堂的造形」そのものなのだ。
 きちんと1Gを感じさせる重量感、しなやかで張りのある身体のバネ、造形対象となったキャラクターのことを知らない人が見ても「……まちがいなくこれはホンモノだ!」と感じさせるオーラ溢れるたたずまい。そのどれもが強烈な破壊力を醸し出す反面、表面処理はあきれるほどに粗く、ディテールもひどく雑だ。
 さらに、インターネットの巨大匿名掲示板上にて皆からアドバイスを受けつつ作品のクオリティーを高めていったというその共同作業的な製作スタイルも、造形梁山泊状態にて集団により作品の質を高めていたかつての海洋堂と相通ずるものがある。
 ……そうそう、「自分で生み出しておきながら“ガレージキットスピリッツ(つねに圧倒的であろうとする造形精神)”という言葉を最近全然使っていないなあ」という事実にふと気付いたのだが、要するに、akiの資質はガレージキットスピリッツという言葉をそっくりそのまま体現しているのだ。こんな才能と'10年代に出会えたことが、ワンフェスとして、『ワンダーショウケース』として素直によろこばしいのである。

text by Masahiko ASANO

あき1974年8月12日生まれ。模型製作キャリア的には「小学生の高学年時にガンプラブームを体験し、高校まではたまにガンプラを組み立てていた」「大学時代に先輩の影響で1/48レシプロ飛行機モデルを製作していた」という程度であったが、'05年ごろに突如として、フルスクラッチビルドにて『デビルサマナー ソウルハッカーズ』のネミッサ(1/4半身像)などの造形に着手しはじめる。その理由は、「社会人になってカプセルトイなどの塗装済み完成品を買うようになり、それまで興味がないフリをしていた美少女フィギュアに目覚めてしまったのだが、ワンフェスやガレージキットの存在は知っていたものの相当に特殊な世界だと思い込んでいたので、自分でゼロから作るしかないと思った」ということにあった。そうした習作を10体ほど作成したのち、'11年[冬]のワンフェスへ一般参加者として初来場したところ、アマチュアディーラーの手によるさまざまなガレージキットで溢れ返る様子に心底驚愕。その場でディーラーとしての参加を決意し、当日版権システムが復旧した'12年[冬]に“サンタ狩り”名義にて初のディーラー参加を果たすこととなった。

WSC#062プレゼンテーション作品解説

© Index Corporation 1996,2006


桐条美鶴

from PS2ゲームソフト『ペルソナ3』
1/6スケール(全高280mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場価格/6,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/8,800円(税込)


 フルスクラッチビルドによる習作フィギュアを数体作成したのち、「ガレージキット処女作」として初めてワンフェスへ持ち込まれた作品―akiのプレゼンテーション作品『桐条美鶴』(PS2ゲームソフト『ペルソナ3』に登場するペルソナ使いの令嬢)は、そんな驚きのバックボーンの下に産み落とされた逸品です。ガレージキット黎明期における海洋堂(今池芳章や白井武志)の作風にも似た、「仕上げは粗く雑だが、2Dのアニメ絵を正しく3Dへ置換する能力はズバ抜けて高い」という作風は、古くからのガレージキットファンには懐かしく、昨今のガレージキットファンの目には斬新かつ革新的に映ることまちがいなし。レジンパーツ状態で眺めると「……うわっ、汚ねえ! 表面処理の方法すら知らないのかよ!?」と怒り出す人もいるかもしれませんが(正直な話、そういうタイプの方にはご購入をおすすめしません)、その荒々しい造形と真剣に対峙すれば、「アニメフィギュアの神髄って要するにこういうことだよね」と必ずや納得していただけるはずです。

akiからのコメント

 お初にお目にかかります、サンタ狩りのakiと申します。このたび選出の旨ご連絡いただいたときには頭が真っ白になって、某掲示板によく出没するアスキーアートの「マジですCAR」というキャラクターがシューっと走っていったようなニュアンスの気分になりました。
 自分、長年「ホーム」といいますか根城にしているのがその某掲示板のフィギュア系スレであるものでAAキャラも馴染み深いところもあるのですが、今回選出いただいた作品についてはそこで邂逅できた方々からいただいた数多のアドバイスがあって初めてかたちになったものだと言っておかなければなりません。
 それだけに、今回こういった場に立たせてもらえたコトが自分の実力によるものだとは到底考えにくいところが多分にありまして。お世話になった方々にはこの場を借りてお礼申し上げられたら幸いです。自分が我が師匠と仰いでいる方にはとくに、とくに。そこで学ばせていただく前の自分はといえばとにかく人体がまともに作れない、顔が胸郭より大きいじゃないかというようなものばかり作ってたようなありさまでしたので。できれば過去作品の画像などは探さないであげてください……。
 そうした経緯がありますので、自分としましては今後も初心を忘れることなく、慢心することなく、こんなんできたよーとUPしたりもしつつ、自分も助言のできるようなよい住人になれるよう努力していきたいと思います。
 頭をよぎった“マジですCAR”もいつかモーターライズフィギュアとして立体化してみたいなと思っています。ゴム動力とかで。いやそれだとモーターじゃなくてゴムライズなのか(´・ω・`)