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WSC #010 S.A.E
[show-A entertainment]
[S.A.E (show-A entertainment)]
よい意味でワンフェスを「踏み台」と考える
新進気鋭のマルチクリエイター集団
まるで大手代理店を絡めたかのような広告原稿に、明らかに○×万円以上費やしたと思われるアクリル装飾のブースディスプレイ。テーブル上には30cmサイズオーバーの、ほぼ文句の付けどころのないクリーチャー系造形物がズラズラと並び、卓内には、余裕しゃくしゃくの笑みを浮かべたスタッフの面々が待ち構えている。
「あ~……この人たちはたぶん、ぼくらとは別世界の住人なんだろうなぁ。で、おそらくこの『じゃぼうにあ』っていうのは、美少女フィギュアにしか興味のない自分には知る由もないソレ系の専門誌に連載されている人気タイトルで、ここに並んでいる造形物は、単行本の表紙撮影用に製作されたワンオフモデルの複製品とかなんだろうなぁ」
って、それ全っ然っまちがっとるがな、キミ~っ!
……というひとりボケツッコミ(←関西では禁じ手)はともかくとして、ワンフェス会場にて“S.A.E”のブース前を通り過ぎた経験のある人ならば、程度の差こそあれ、このような印象を覚えたのではないだろうか?
ワンフェス会場の空気と非常に相性の悪い、甘えや馴れ合いなどをすべて排したプロっぽさ。多かれ少なかれほとんどのディーラーがオーラとして発している、「ここにしか自分の居場所はないんだ!」という切実さがま感じられない余裕っぷり。こうした雰囲気に対し、違和感を覚えないほうがむしろおかしい。
しかし――いざ彼らの話をじっくり聞いてみると、想像とはかけ離れた事実が次々と判明したのである。
曰く、「S.A.Eは、造形や小説、コミック、イラストなどのあらゆる表現手段を駆使する創作グループで、ガレージキットの製作や販売だけを目的としているわけではない」「『じゃぼうにあ』というオリジナルコンテンツを発信するにあたり、ワンフェスを出発点として選んだ理由は、“誰もが瞬時に送り手側にまわれるガレージキットというメディアの特性がおもしろかった”ため。ゆえに、ワンフェスやガレージキットをスタートとしつつも、その先は海外進出や映像化などの展開をも見据えている」等々。要は、ほかのメディアや異形態へとリンクしていくことを前提に、ワンフェスやガレージキットをよい意味で踏み台代わりに利用しようとする連中が現れたわけだ。いやはや、なんとも痛快かつ、ワンフェスやガレージキットそのもの自体の熟成ぶりを逆説的に物語る話ではないか。こんな素敵な野望に対し、WSCが手を貸さないでどうする!
ただし、WSCが協力したい(協力でき得る)ことは、「S.A.Eとは何者なのか? そして、彼らは何を考え、何をしようとしているのか?」ということを、このプレゼンテーションを通じて世に知らしめる、ただそれだけでしかない。それゆえに、ここではあえて、『じゃぼうにあ』の世界観や設定うんぬんについては触れないでおこうと思う。とにもかくにも、まずはS.A.Eというユニークな連中に対し興味を抱いていただきたい。そしてその上で、彼らの手掛ける作品が評価に値するのかどうか、各自の審美眼でじっくりと見極めていただきたいのである。
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text by Masahiko ASANO |
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エス・エー・イー(ショウエイ エンターテイメント)●1998年4月、『じゃぼうにあ』の商品製造販売元である(株)新巧模型製作所に関わり合いのあった面々が集い、プロジェクトリーダー・松村克也の構想の下に結成。当初は松村克也(1962年生まれ。世界観構築、造形、イラスト、テキスト、Web制作担当)、高木信之(1962年生まれ。企画、二次元資料制作、イラスト担当)、西角新也(1973年生まれ。デザイン、造形、Web制作担当)、毒島孝朴(1972年生まれ。デザイン、造形担当)の4名だったが、その後、篠原一公(映像制作)、安藤元哉(デザイン、造形、イラスト)、只野★慶(デザイン、造形、イラスト)が加わり、現在メンバーは7名。ワンフェスには“NEXT ONE”名義('01年夏より“NEXT ONE/S.A.E”に改名、現在は“S.A.E”名義にて活動)で'99年夏より参加している。『じゃぼうにあ』では、誰かひとりがデザインを描いて世界観を統率しているわけではなく、それぞれのキャラクターを各自でデザインしつつ造形しているそうだが、それでこのトータリティの高さは非常に不可思議。世界観構築に時間を費やした結果ではあるのだろうが、それだけでは説明し切れない、ある種オカルト的な偶発作用が機しているようにも思われる。
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WSC#010プレゼンテーション作品解説 |
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© S.A.E
じゃぼうにあ
スターターキット
※from『じゃぼうにあ 邪宝国創事紀』
1/16(全長140mm)レジンキャストキット“冥王 ハリ・ハラ”(原型製作/毒島孝朴(S.A.E))
+B5変形16ページ小冊誌“S.A.Eスタイルブック”
+S.A.E特製トレーディングカード(8枚組)
+お香(インセンス)“鍵の香 -じゃぼうにあの扉-”
■ 商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/4,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/6,800円(税別)
(※販売は終了しています)
突如としてワンフェスを襲撃しはじめた新進クリエイター集団、“S.A.E”。果たして彼らは何者なのか? そして、彼らが世に問う完全オリジナルタイトル『じゃぼうにあ 邪宝国創事紀』とは、いかなる作品なのか? そうした疑問への回答として、また、彼らのすばらしく精巧な造形物を実際に手に取って楽しんでいただくために、WSCは、S.A.Eと『じゃぼうにあ』のことが簡単に理解できるスターターキットをプレゼンテーションします。
じゃぼうにあ世界を象徴する悪の権化“冥王 ハリ・ハラ”の新作レジンキャストキットに加え(既存のハリ・ハラのキットは30cmサイズオーバーで価格も高額だったため、約半分の大きさとなる縮小版キットを新たに作り起こしました)、S.A.E読本やお香(!)までもがセットされたその内容は、ガレージキットの新たなスタイルとしても注目です。
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S.A.Eプロジェクトリーダー・松村克也からのWSC選出時におけるコメント |
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何かヘンだな。ガレージキットやその即売会系イベントを眺めていて感じた、素直な感想だ。どうして版権物ばかりなのだろう? あれだけの数のディーラーが集うワンフェスにしても、オリジナルな作品を出しているブースは数えるほどしか、ない。もちろん造形物の特性やコストなどを考えると、売れ線の二次著作物が主流になるのはわかる。しかし、それにしてもオリジナルが少なすぎないだろうか? そもそもオリジナルを、オリジナルとわざわざ言わなくてはならないのはヘンだ。
ガレージキット界で言う「造形」とは、紙とペンで「書く」、映画を「撮る」と同じく表現のための一手段だと思う。「ガレージキット造形」というひとつのジャンルで表現される作品が、非常に誤解を招きやすい言い方だが、文字表現で言うところの「ノベライズ」や「パロディ」ばかりだというのは、比率的におかしい。なぜガレージキット的「小説」や「エッセイ」が少ないのだろう。
もしかしたら、ガレージキットはまだ黎明期にあるのだろうか? もしかしたら、これからアニメやコミックに影響を与えるガレージキット作品が溢れ出してくるのだろうか? もしそうなら、いますぐに何かをはじめれば先駆者になれるのではないか?
……という、すでに破綻しかけている論理を元に、私たちは『じゃぼうにあ 邪宝国創事紀』を企画したわけだが、経済原則とか消費者ニーズとかを忘れている私たちにとって、今回のWSC選出は願ってもない最高の応援である。私たちを選出してくれたWSCの勇気と、私たち以上の無謀さに敬意を表したい。そして、まさしく非営利なこの行為に心から感謝したい。
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