アーティスト紹介

WSC #019 かわにし けん

Ken KAWANISHI

[ぐりむろっく!]

決してネガティブ・シンキングとは言い切れぬ
「あきらめ」からはじまる物語

「いまどきめずらしい、ガレージキット愛好家だけに向けられたガレージキット愛好家の手によるガレージキットらしいガレージキット」
“かわにし けん”とその作品に対する評として、こうしたフレーズを耳にすることがある。
 イベントや自身のWebサイトを通じたガレージキットの原型製作及び販売を活動の主軸に据え、(程度の問題で)安定した収入が約束される反面、造形上での自由度が低く、没個性な側面をも要求される商業原型仕事に傾倒しないその姿勢は、なるほどコアなガレージキットファンの目には「ガレージキット愛好家に対してやさしいガレージキット作家」と映ることだろう。実際のところ、イベントをベースとした活動などというのはこの先の人生に対し1%すらの保証もないわけで、それでいながら専業原型師的スタンスを貫き通すかわにしには、ある種の潔さというか、自分の創作行為に対しひどく真摯なものを感じずにはいられない。
 しかし、彼はほんとうに「ガレージキット愛好家(無論、そのなかには大多数のガレージキット作家や専業原型師も含まれる)に対してやさしいガレージキット作家」なのだろうか? ぼくの目には、「彼らを小馬鹿にしている」とまでは言わぬものの、「ガレージキット愛好家たちを三歩引いた地点から醒めた目で客観視している」ように見えるのだが。
「まあ……そういう意見に対して自分から“そのとおりです”と答えるつもりはありませんが、自分の作品を見た人たちが“ガレージキット万歳!”みたいなことを言う件に対しては、確かに複雑な思いがあります。ある意味、私なんかはガレージキットに絶望を感じちゃったりもしているわけで……」
 まずは「しょせんガレージキットやそれを取り巻く環境なんてこんなもの」というあきらめから入り、すべてを一度否定した上で、この先の未来に光明を見出すべく戦い方を吟味する―人によってはネガティブ・シンキングとしか受け取れぬだろうが、ぼくはこうしたかわにしのシニカルなスタンスの取り方に、非常に心地よいものを感じる。
 もちろんその自己批評性の高さから、ときにはシニカルさがこの先の光明を完全に覆い尽くし、それこそ絶望に打ちひしがれることもあるだろう。が、いくら雨が降り続いたところで「でもいつかは止むさ」と誰もが思うように、かわにしは心のどこかで「雨が上がったあとの風景(=ガレージキット的造形がガレージキットシーンや安価なPVC製塗装済み完成品以外の世界でも開花していく姿)」をきちんとイメージし、そしてそのときがやってくることを信じているはずだ。
 彼の作風や、造形上における方法論等については、ここではあえて触れまい。なぜならば、かわにし造形の真実はそうした「目に見える要素」内ではなく、この場で述べたような彼の「目に見えぬ戦い」内にこそ隠されているはずだから―。

text by Masahiko ASANO

かわにし けん1974年7月21日生まれ。小学生時代、かなりディープに模型製作へハマるも、中学~高校時代には模型に一切触れぬという、ある意味健全な学生ライフを過ごす。が、専門学校卒業後、会社員を経たのちに模型店でのアルバイトを経験し、そこでプロモデラーなどと接触する機会を持った結果、「いっしょにワンフェスへディーラー参加しないか?」という誘いを受けることに。'00年[冬]のディーラー初参加(この際、あさの&白井武志からWSCの名刺を渡され、「センスがあるので次回作もがんばって」との激励を受けていたりもする)後、紆余曲折を経て造形を生業とすることを決意するに至り、各種イベントにてコンスタントに新作を発表しはじめる。'02年[夏]からは、自身が代表を務めるディーラー“ぐりむろっく!”としてワンフェスへ参加。版権もののキャラクター造形も手掛けるが、自身のデザインによる創作(オリジナル)系キャラクターの造形も得意としており、その絵心は、プレゼンテーション商品となった綾波&アスカにおける高いアレンジ能力を見ても充分に伝わることだろう。

WSC#019プレゼンテーション作品解説

© GAINAX


綾波レイ
& 惣流・アスカ・ラングレー

※from 『新世紀エヴァンゲリオン』
ノンスケール(全高各165mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/2,800円(税込)
ワンフェス以降の一般小売価格/4,800円(税別)

(※販売は終了しています)


 商業原型に携わることを意図的に避け続けてきたかわにしは、ワンフェスや自身のWebサイトを主戦場とするガレージキット作家。そんな彼が'02年9月と11月に世へ送り出し、どちらかと言えば同業者=原型師サイドに大きな衝撃を与えたのが、今回のプレゼンテーション作品となる「同人誌感覚」溢れる造形の“綾波レイ”と“惣流・アスカ・ラングレー”(共に、マルチメディア作品『新世紀エヴァンゲリオン』より)です。
 大胆なアレンジを認可した版権元のガイナックスにも拍手を送りたいところですが(元のデザインの意匠こそきちんと残っているものの、本来あるはずのない尻尾やプラグスーツの大胆なアレンジ等、見方によっては「完全な別物」になっているわけですから……)、ガレージキットシーンにこうした方法論を持ち込む「コロンブスの卵」的発想と、実際にそれを高次元で成し遂げてしまったかわにしの才能は、この世界にひさびさ吹いた「新風」と言ってまちがいないはずです。

かわにし けんからのWSC選出時におけるコメント

 最近ツマラナイんですよね、不景気だからとか国の改革が一向に進まないからとか北朝鮮にナメられてるからとかではなく、好きな漫画が打ち切りになったからではもちろんなくて。
 ガレージキットイベントにおいて「キラータイトル不在」や「版権が下りない」ということを理由に、新鮮味のない新作がただ漠然と消費されつづけている現状がですよ。
 お祭りは楽しくなくてはイケナイと思うんですけど、その楽しさというのが、売り手側と買い手側との安っぽい繋がり合いとかだったり、身内どうしの同窓会だったりに終始してるのはチョットどうかと思うんです、悪いとは言いませんケド。
 停滞しつつある業界にあって、何か新しい価値観なりり表現方法なりを明示できないと送り手にとっての致命傷になりかねないのですから、ホンのもう少し、将来のことを気に掛けるべきではないのでしょうか?
 だからといって私のしていることが決して新しいことであるとは言えないのですが、これをきっかけに、何か新しい価値観を体現できる人が出てきてくれるのであればそれで構わない、というかむしろ望むことなのかもしれません。
 イベントあってのガレージキットだと思うので、会場で「オモシロイモノアッタヨ」と言える何かがほしいんですよー。
 そんな想いを込めつつの、レイとアスカなのかも。